閑話休題
異常気象と農業
異常気象と農業
宮北 啓(金沢工業大学教授)
わが国では昨年の異常低温とは逆に、今年の夏は猛暑で水不足も記録的であり、また韓国・中国・欧州各地でも史上最高気温を記録している反面(インド・東南アジアで大雨)、比国で異常低温・冬期の南半球では非常な寒波続きであった。しかし地球規模でみれば全体ではほぼバランスがとれているようである。
現在WMO(世界気象機関)では気象要素の30年間の平均値を、それぞれの気候値あるいは平年値として用いているが、時にはその変動幅から大きく逸脱することがあり、このような気象を異常気象としており、特に気温と降水量の場合が影響は大きい。ここで30年に一度という基準は統計的な意味での平均再現期間を指し、月平均気温のように正規分布する場合は、平年値からの差が標準偏差の2.2倍以上に達した場合に当たっており、このような気象は当然農業にも大影響を与えることになる。以上は長期的・広域的な場合であるが、短期的・局所的な場合では、最近20年間については気象災害の原因が台風よりも集中豪雨の際に多くなりつつある。
近年、世界的に異常気象が多発しているが、これは同じ気圧配置が1月以上にわたって持続するとき発生し、特に上空の偏西風が南北に大きく波打つ時に多いとされているが、これらの原因については未だ十分に解明されていない。しかしこの異常気象により、地球環境・食糧問題・社会変動等に及ぼす種々の問題には、いや応なしに直面せざるをえない。
気象衛星及びその他の衛星やレーダーを利用した、リモートセンシング技術による観測・解析技術の著しい進歩は、情報の迅速なる伝達を可能とし、また防災技術の発展と相まって災害を著しく軽減するのに大いに貢献しているが、今後さらに予測精度の飛躍的向上が望まれる。
昨年のウルグアイ・ラウンドでは、折からの大凶作も背景にあり、わが国の農業としては画期的な外米の長期輸入に踏み切り、来年度はミニマム・アクセスの約40万トンを皮切りに輸入が増やされる。冷害は一般に2年程度は続く場合が多いが幸い今年は大豊作となり、このため年初に緊急輸入された外米の多量在庫との状況により、コメ政策が大転換を迎えようとしている。ただ国内農業においては、60年代初頭に穀物自給率が80%であったのが現在は既に30%割れであり(カロリーベースの食糧自給率では80%から45%以下)、しかも今後はコストのみならず質的にも優れた外米が輸入され、国内農業が空洞化しかねない。さらに輸出国に異常気象が襲えば輸入価格は急騰し、たちまち社会不安が生ずることになる。また長期的には今後世界の人口は急激に増加し、食糧がそれに伴わない情勢にある。従って最小限度の自給率を確保するため、新品種の開発・農作業省力化の徹底・長期気象予報による適切な品種選定、さらに各生育ステージでのきめ細かい対策を必要とし、それには現在までに蓄積されたリモートセンシング技術による研究成果の利用とともに、一層の研究が望まれる。
また今回農基法を抜本的に見なおすにあたり、今後国際的に通用するわが国の農業生産の在り方も検討しなければならない。それは既に1992年OECD(経済協力開発機構)が農業における環境の問題を本格的にとりあげ、新しい対策の枠組みを提唱しているからである。
従来わが国の米の自由化に対する反論の中では、水田農業は国土保全や環境改善に重要な役割を果たすというプラスの面のみを強調し、化学肥料・農薬の過大投与による環境汚染のマイナス面は伏せていた。しかしこの提唱を承けて、同年農水省が発表した「新しい食糧・農業・農村政策の方向」では、環境保全型農業への取り組みの必要性を指摘しており、この分野におけるリモートセンシング技術の重要性がさらに増すものと考えられる。
(写真測量とリモートセンシング、33巻、第6号、1994年掲載)
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