図説:東北の稲作と冷害
玄米の生長の特徴
登熟期の高温による各種粒質の発生機構を理解するために、玄米の胚乳組織の形成とデンプンの蓄積過程を知る。
玄米の生長の特徴
玄米の胚乳細胞の分裂は毎日深夜から早朝にかけて起こり、昼間から宵には休止するという日周期の特徴があります。細胞分裂は開花後約9日間続いて終了します。しかし低温条件下ではこの期間は長引き、16日頃まで分裂が続いたとの観察事例もあります。この分裂が終了する頃が大体傾穂期(乳熟初め)に相当します。胚乳細胞の分裂終了後は、専ら各細胞の生長によって胚乳は肥大し、開花後20〜30日まで続き、粒の形が完成します(図1)。細胞の肥大生長は初期に形成された中心部にある細胞から始まります。中心部の細胞が肥大を始めることは周辺部の細胞はまだ分裂しています。したがって、胚乳内の物質の蓄積は中心部ほど早いのです。
次に胚乳組織における物質の蓄積について図2でみることにします。
この図と本ホームページで使用している玄米の発育段階−傾穂期(乳熟初め)−糊熟期−黄熟期−成熟期を対応させると、開花後約10日頃が傾穂期(乳熟初め)、同20日頃が糊熟期、同30日頃が黄熟期、同40日頃が成熟期にほぼ該当するとみられます。この玄米の発育過程は温度に大きく依存することが知られています。
胚乳組織にデンプン粒が蓄積され始めるのは開花後3日目からです。中心部の最も早く形成された細胞からデンプンの蓄積が始まり、中心部では開花後13日頃(約10日後)に細胞がいっぱいになって、胚乳細胞として完成します。その後は順次周辺部の細胞へと蓄積が進みます。周辺部の細胞は開花後10〜15日頃から蓄積が始まり、12〜15日間をかけて蓄積を終わります。胚乳細胞中にデンプンが充満して蓄積を完了すると、細胞がガラス状に透明化します。この透明化は中心部から始まり順次周辺部に及びます。
このような玄米のデンプン蓄積過程から、各種粒質の形成過程を推測することができます。
ケース1:登熟初期〜中期に何らかの原因で玄米への転流量が不足するか、胚乳側の障害で蓄積が不完全だった場合は、中心部の蓄積が少なくなるため透明化せず、光線の乱反射のために白色粉状質となります。これが登熟後期に転流・蓄積が好転した場合には、周辺部が透明化し、玄米の外観は表面に光沢があり乳白色のいわゆる乳白米となります。
ケース2:登熟初期は正常な蓄積であるが、後期になって転流量が減少して蓄積が不十分となると、内部は透明でも周辺部が白質化して、外観は光沢のない、いわゆる死米となります。周辺の白質化の薄いものは半死米と呼ばれています。
ケース3:心白米も中心部の細胞へのデンプン蓄積が不十分なものといえます。一般に心白の発生は酒米などにみられるように、品種の遺伝的な特性ともいえますが、同一品種や同じ穂でも、大粒に育った粒に多く発生し、また登熟条件のむしろ良い場合に発生が多い傾向が知られています。このことは初期に胚乳細胞の容積拡大が旺盛に過ぎて、転流が正常なのに中心部の細胞を一杯にすることができない現象とも考えられています。すなわち、胚乳細胞の器が大きすぎることを意味します。この点から、乳白米とは異なります。
ケース4:腹部細胞にデンプン蓄積不足が生ずる腹白米は、一般に一穂のうちでも大粒になるべき位置の粒に発生しやすく、実際に腹白にならない粒に比較して粒幅が大きく、しかも粒重も優れています。このことから、登熟後期の胚乳組織内の転流通路で、腹部が最も遠い末端にあることが原因とも考えられています。これも転流は正常でも、蓄積側の生長しすぎが引き起こす現象ともみられます。
ケース5:胚乳の基部で胚に近い部分も、転流通路としては最も遠いところといえます。普通あるいはやや劣る登熟状態で、もし転流が僅かに不足もしくは早めに停止した場合には、この部分が白質化することがあり、基白(もとじろ)米の原因と考えられます。
これらケースは胚乳組織の形成過程、光合成による炭水化物の供給量、胚乳内の転流経路の特徴などを考慮して推定される作業仮説といって良いといます。次から問題を限定した実験結果を紹介して、問題を整理していきたいと考えています。
参考文献
・星川清親 1976 「穀粒の登熟」『作物−その形態と機能』、農業技術協会。
reigai@ml.affrc.go.jp