2.本年の不作は冷害か?
作柄が不良となった秋田・山形両県の被害は冷害ということが適当か否か,気象監視地点の大曲と楯岡を例として検討してみたい.
まず,東北地域の暖候期(4月〜9月)の天候の概要を仙台管区気象台の資料から振り返ってみることにする.
4〜5月:低気圧や前線の影響を受け,曇りや雨の日が多かった.また,南からの暖かい空気が入りやすく,全般に気温は高く経過し,暖かい春となった.
6月:上旬前半に南部で,中旬前半に北部で梅雨入りした.上空に寒気を伴った低気圧やオホーツク海高気圧の影響で,大平洋側を中心に天気がぐずついた.このため,気温の低い日が多く,日照時間はかなり少なくなった.
7月:梅雨前線が北上し本州付近に停滞し,前線の活動が活発となった.このため,引き続き曇りや雨のぐずついた天気となり,南部を中心に大雨になったところもあった.下旬前半に太平洋高気圧が本州付近に張り出して梅雨明けし,その後は7月末まで暑い晴天が続いた.
8月:南部は中旬以降は晴れて,暑い日が多かった.しかし,北部ほど曇りや雨の日が多くなり,気温は北部で平年並みとなった.8月上旬は前線が東北地方に停滞し,全般に曇りや雨のぐずついた天気となり,所々で大雨となった.中旬は高気圧に覆われて晴れの日が多くなったものの,前線の通過などで一時的に天気が崩れた.下旬は再び前線が東北北部に停滞し,北部では曇りや雨の日が多かったが,南部では晴れて暑い日が多かった.
6から8月の夏の平均気温は+0.2度で,平年並みであった.
9月:低気圧と高気圧とが交互に通り,天気は周期的に変化した.寒暖の変動が大きく,上旬と中旬は寒気がたびたび入り気温が低くなったが,下旬は台風第14号が持ち込んだ暖気の影響などで高くなった.
また,気象情報発表状況は次の通りです.
5月11日:日照不足に関する東北地方気象情報
6月6日:低温と日照不足に関する東北地方気象情報
6月8日:梅雨の時期に関する東北地方気象情報
6月12日:低温と日照不足に関する東北地方気象情報(第2号)
6月19日:低温と日照不足に関する東北地方気象情報(第3号)
6月23日:低温と日照不足に関する東北地方気象情報(第4号)
6月30日:日照不足に関する東北地方気象情報
7月7日:日照不足に関する東北地方気象情報(第2号)
7月14日:日照不足に関する東北地方気象情報(第3号)
7月24日:梅雨の時期に関する東北地方気象情報(第2号)
8月4日:日照不足に関する東北地方気象情報
8月18日:日照不足に関する東北地方気象情報
8月21日:日照不足に関する東北地方気象情報(第2号)
このように,6月は低温と日照不足に関する気象情報が約1週間間隔で出され,また7,8月は日照不足に関する気象情報が発出され,農作物の管理に注意が喚起された.
次に,稲の生育をベースとした気象経過を大曲と楯岡を例に次図からみることにする.この図は,前7日間の移動平均値による図示であり,生育ステージは積算気温法で推定したものである.
移植時期は平年より気温も高く,苗の活着も良好であった.
稲の分げつが盛んに形成される6月〜7月上旬には気温は低く,著しい日照不足となった.7月中旬には一時的に気温は高くなったが,日照不足は続いた.
幼穂形成期は穂の発育が始まる時期で,穎花原基が形成され,穂につく籾数を決定する重要な時である.この時期,一時的な低温と強度の日照不足となった.
減数分裂期は障害型冷害の最大の危険期であるが,この頃に籾殻の大きさも同時に決定される.この時期は気温も高く,日照も平年並み以上となった.
出穂・開花期は受精が行われ,低温による受精障害の危険期でもある.この時期一時的な低温・日照不足,さらに集中的な多雨となった.
出穂期以降も8月末まで日照不足は続き,大曲では下旬に集中的な降雨があった.9月に入って徐々に低温傾向となった.日照は平年並みに推移したが,9月中旬にはかなりの低温となった.この頃,稲は成熟期を迎えた.
このように,これら地帯の気象経過の特徴は,次の通りとなる.
(1) 穂の基となる分げつが形成される時期に低温とかなりの日照不足となったこと.
(2) 1穂の穎花が形成される時期に一時的な低温とかなりの日照不足となったこと.
(3) 開花・受精が行われる時期に一時的な低温とかなりの日照不足となったこと.
(4) 登熟の初期に日照不足となり,中期〜後期に徐々にかなりの低温となったこと.
これらの気象経過を基に,先の作柄の要素別概況をみると,本年の不作の状況がより理解できよう.すなわち,
(1)と(2)から,穂数が平年に比べて少なくなり,また少なくなったことに対する補償作用としての1穂籾数の増加は期待するほどではなかった.その結果として,単位面積当たりの全籾数が減少した.このことが減収の最大の要因であるといえる.
(3)と(4)から,開花・受精にばらつきが多くなり,登熟初期の玄米の生長が緩慢となり,その生長にもばらつきがみられた.中期〜後期の低温で登熟程度の籾間の差がより大きくなり,青未熟米を多発した.また,大曲では8月下旬の集中的な降雨で倒伏が誘発され,登熟をさらに悪化させた.さらには,穂いもちの防除時期に雨が多かったために,適期防除が実施しにくく,また防除効果が低下したことも考えられる.それが穂いもちの発生と蔓延を助長し,登熟をさらに悪くしたものと推察される.
さて,最後に本年の不作が冷害といえるかどうかを検討してみたい.
冷害の定義は諸説あるが,坪井(1993)のものが最も分かりやすいと思う.そこで,次項の「図説東北の冷害(1)冷害の型」を紹介する.これによると,冷害の型には遅延型,障害型,そして両者が併発した複合型とに分類されている.
坪井の遅延型冷害の記述を読んでいただくとわかるように,「総籾数の減少と登熟障害で減収するのが遅延型冷害である」という現象は本年の不作の症状と合致する.しかし,「遅延型」には生育が著しく遅延し,登熟期が秋冷期にずれ込むことによる登熟障害を含意する.すなわち,出穂期が1週間や10日以上遅れることをわれわれはイメージとしてもっている.しかし,本年は6月の低温と日照不足で出穂期に数日の遅れはみられたが,極端な出穂遅延は認められなかった.これは,日照不足によって最高気温は平年に比較して,かなり低かったが,最低気温はそれほどの低くならなかったことが原因しているのかもしれない.このようなことから,総籾数の減少は直接的には日照不足による炭水化物生産の減少が分げつ数,穂数の減少につながったものといえる.
一方,9月上旬から中旬の低温は登熟不良に関与したことが推察されている.坪井はこれまでは障害型冷害には入れられていなかったが,登熟初期の低温は発育停止籾を増やすので,登熟障害型の冷害と提案している.本年の青未熟米の多発は登熟期中期と後期の低温に関係するものとみられ,坪井の定義とは一致しない.また,この低温が直接的に玄米の発育を停止させたと結論を下すことが今の段階ではできない.
以上検討したように,本年の不作には低温が関与したことは事実であるが,その影響が直接的であるか,または間接的であるのかで,冷害というかどうかが決まるものと思う.現時点では,これら作柄の分析結果を待つしかなく,冷害というかどうかの判定は困難な状況である.
3.図説 東北の冷害(1) 冷害の型
水稲冷害は生育期間の冷温によって発生するが,冷温がどの生育時期に遭遇するかによって,障害の様相さらには被害の様相に大きな違いがある.
冷害の様相には「遅延型冷害」と「障害型冷害」の2つの型があり,普通これを「冷害の型」といっている.両型が併発した場合を「混合型冷害」とか「併行型冷害」という.
また,冷害気象下でいもち病による被害の大きいときは,「いもち型冷害」ということがある.
図1は,遅延型冷害と障害型冷害における冷温による障害発生から減収に至る経過を模式的に示したものである.
1) 遅延型冷害
水稲の生育前半(栄養生長期)に冷害気象(冷温・少照)が襲来し,生育不良で出穂期が平年より著しく遅延し,そのため,登熟期間が秋の低温期にかかって,登熟不良となって減収するような冷害をいう.
遅延型冷害の場合は,田植え期から穂ばらみ期に至る頃までの間,連続してあるいは部分的に冷温・少照の冷害天候になり,田植え後の活着・生育・分げつが不良となる.その結果,1株の穂数,1穂の籾数が減少し,ひいては単位面積当たりの総籾数が減少する. 一方,生育不良で出穂期が遅延すると,登熟期が秋冷期へずれ込み,低温のために種々の登熟障害が発生する.出穂期が遅れても,温度的には受精障害はない.その後の低温で登熟過程の障害,すなわち発育停止籾(しいな)や屑米が増加し,1粒重の低下などが発生し,減収に至る.
このようにな総籾数の減少と登熟障害で減収するのが遅延型冷害である.
2) 障害型冷害
水稲の生殖生長期に一時的冷温の襲来により花器が障害を受け,受粉・受精が妨げられ不稔籾が多発するときに起こる冷害である.
穂ばらみ期の冷温は花粉の発育障害を起こし,受粉・受精が正常に行われず,稔実歩合が低下して減収する.
出穂開花期の冷温は穂の抽出や開花に障害が起こり,受粉・受精が正常に行われず,稔実歩合が低下して減収する.
幼穂形成期の冷温は1穂の穎花形成数を減じ,減収する.
以上の3時期が冷害危険期と一般にはいわれている.しかし,幼穂形成期の幼穂は水中にあって冷温空気に触れることはないので,農家の水田では障害が発生しないので除外できる.
登熟初期の冷温はこれまでは,障害型冷害には入れられていなかったが,発育停止籾を増やすので,登熟障害型の冷害ともいえる.
3) 混合型冷害
遅延型冷害と障害型冷害が併発したものをいう.
混合型の被害は,それぞれ単独冷害の場合より甚大となる.
江戸時代の大飢饉は混合型であったと推定されるし,昭和35年,大正2年のような大冷害も混合型であった.
出典:坪井八十二(1993):気象と農業生産.養賢堂.p.165-167.
4.平成7年度 第2回東北地域水稲安定生産推進連絡協議会
去る10月27日に,東北農政局で標記会議が開催されました.東北農試からは次長,地域基盤研究部長,井上と鳥越が出席しました.議題は次の通り.
1)協議会およびワーキンググループの活動と各県における指導・通達事項(農政局・県)
2)平成7年暖候期の気象の特徴(仙台管区気象台)
3)本年の作柄の特徴(東北農試)
4)本年の稲作の作柄および品質(農政局・宮城食糧事務所,各県)
5)平成7年度の活動の問題点・改善策および平成8年度の取り組み
会議では,日本海側の秋田・山形両県の不作の原因に話題は集中しました.この不作の原因解明と技術的対応の策定に関して調査・分析が急がれますが,会議の時点ではデータが出そろっていないために,12月に予定されている稲作検討会で集中的に討議されることになりました.
目次へ
ホームへ
前号
次号
戻る
ご意見どうぞ