2.最近の暖候期天候の特徴
東北地域水稲安定生産推進連絡協議会のメンバーである仙台管区気象台の葛巻予報官に東北地方の暖候期天候の特徴を投稿いただきましたので紹介します.
表1は1980年以降の暖候期の天候を春,梅雨,盛夏ならびに初秋の時期別に要約したものです.このように各年次の特徴を表現できます.
図1は1941年(昭和16年)以降の東北地方16官署(青森・八戸・むつ・深浦・秋田・盛岡・宮古・大船渡・山形・酒田・仙台・石巻・福島・小名浜・白河・若松)の夏期間(6月〜8月)の平均気温の平年偏差を図示したものです.これによると,1960年頃までは暑い夏と寒い夏とが頻繁に現れているが,1961年頃から約15年間は安定してあまり変動のない期間となっています.しかし,1976年以降再び暑い夏と寒い夏とが頻繁に現れるようになり,変動の大きな期間となっています.
また,図2は1961年〜1975年と1976年〜1994年までのそれぞれの期間で,平年偏差による3階級(平年より高い,平年並み,平年より低い:平年並みの範囲は東北地方の平均気温平年偏差が-0.5〜+0.3度である)に分類したものです.これによると,1961年〜1994年の期間は平年並みの頻度が高かったのですが,1976年以降最近では平年並みの夏が少なく,寒い夏と暑い夏の頻度が平年並みより高くなっているのが特徴です.
以上のように,最近の暖候期の天候は変動が大きくなっています.本年は暖候期予報にあるように,熱帯の西部大平洋海域に暖水が蓄積されています.この現象を示す年は低温年が比較的多い傾向があります.今までの気象経過からみた参考年うち,1989年は大平洋側を中心に作況が悪かった年です.今年も気象の経過を注視する必要があると思っています.
3.いもち病はどこからくるのかi
岩手県立農業試験場
環境部長 武田眞一
昨年(平成7年)はいもち病が多発して過去10年では平成3年に次ぐ第2位の発生を記録した.発生特徴の第一は県北部や山間部での多発で,特に,8月上旬の出穂期が降雨に遭遇した品種「かけはし」に被害が集中した.この解析と今後の防除対策については参考事項にとりまとめているので,活用していただきたい.昨年の発生特徴のもう一つは,県内各地で早期発生がみられたことである.早期発生とは全般発生開始時期(広い範囲で一斉にごく低密度の発生が始まる)以前に特定の農家や圃場で局地的にみられる現象で,予察は難しく防除が後手になりがちである.早期発生は毎年どこかで観察されるが,その対策を講じるためには早期発生の原因となる伝染源を明らかにする必要がある.早期発生の実態やいもち病の生態的知見をもとに,あらためていもち病がどこからくるかを考えてみたい.
1.本田での葉いもち早期発生の原因は取り置き苗や「持ち込み」
いもち病の伝染源には被害わら,罹病種籾,イネ以外の植物のいもち病や胞子の長距離飛来があるとされている.本田での伝染源としては被害わらや罹病籾殻が注目されるが,秋に施用されたわらや籾殻堆肥では菌糸は死滅するので,野積みわら(内部では菌糸生存)や屋内の乾燥状態で保管したわらを田植え以降に野外に持ち出した場合に本田での伝染源となる可能性がある.しかし,本県で6月上旬から中旬頃から問題となる早期発生の伝染源は,主に取り置き苗や罹病苗の「持ち込み」である.
防除所の調査によると,昨年6月上旬の取り置き苗でのいもち病の発生や発病苗の「持ち込み」圃場が近年になく多かった.これらの圃場では,7月上旬には畦畔からでも容易に病斑が発見できる程度に発生が拡大しており,明らかに取り置き苗や「持ち込み」が伝染源になって早期発生を招いていた.このような圃場では葉いもちの予防粒剤の施用が遅れた場合はもちろん,6月下旬の適期に使用した場合でも発生を十分抑えきれないところが多かった.
昭和62年や平成3年の調査では,地域での取り置き苗での発生圃場率は7〜13%に達する場合があり,葉いもち発生量の地域差の大きな要因になっていることがわかっている.昨年6月上旬にS農協からの通報で調査したところ,取り置き苗での発生圃場率が37%,「持ち込み」を確認した圃場も含めると66%に達する地区があった.「持ち込み」とは育苗中に発病した苗や発病しないまでも感染し潜伏中の苗が本田に移植されることで,取り置き苗での発病もその多くは育苗中での感染,発病が原因である.
2.育苗中のいもち病の伝染源は?
本田での早期発生は,育苗中の感染・発病→「持ち込み」や取り置き苗→本田感染,蔓延というルートが推定された.それでは,育苗中の伝染源はなんだろうか.箱育苗の場合罹病種子は極めて重要な伝染源となる.種子消毒が不完全だと罹病種子から「苗いもち」が発生して,それが伝染源となり苗の葉いもちを発生させる.多発年の種籾を使う場合は塩水選,種子消毒を確実に実施することが大切である.しかし,本県では健全種子を使用し,消毒を行った場合でも苗のいもち病感染,発病事例が多くみられている.その犯人(伝染源)は被害わらや籾殻である.
S農協の「持ち込み」のあった農家の育苗環境には以下の共通点があった.
・有畜農家で稲わらや籾殻は家畜の敷料として利用されている.
・雨よけほうれんそう栽培を行っており,ハウスは水稲育苗と兼用.
・そのハウスまたは隣接するハウスは,わらや籾の貯蔵のため周年被覆を行っている. 実際,育苗ハウス周辺のハウスには籾殻などが貯蔵されており,一部は周辺に散乱していたので,その一部を採取して胞子を形成するかどうかを調査した.その結果,下屋保管の古い稲わら(節いもち),育苗ハウスの裾ビニールの隙間の籾殻,ハウスの間の通路に堆積した籾殻が胞子を形成した.
いもち病菌は乾燥状態であれば被害わらでは4年,罹病籾でも一年半以上も胞子形成能力を持ち続ける.これらの伝染源は周年被覆のビニールハウスの中や下屋という乾燥条件下でいもち病菌を生きながらえさせていたのであろう.ハウスの中であれば保温と灌水によって容易に胞子を形成する.ハウスの外であっても昨年のように5月中旬が高温に遭遇すると胞子形成可能な温度条件となり,適度な水分があれば胞子を飛散させたと想像できる. 最近の教科書には,農家でのわらの利用は減少し,被害わらが伝染源となる事例は育苗の敷きわらとして使用された場合などの特殊な事例に限定されると書いてある.確かに水稲育苗資材としてわらや籾殻を使用することはなくなったが,営農形態によっては育苗ハウスの周辺はあいかわらず伝染源だらけである.これまでも,県南の肉牛肥育農家や施設野菜栽培農家のハウスでのいもち病感染事例を紹介し,育苗中の茎葉散布による防除の必要性を強調してきた.本年の調査結果も,営農形態と病害伝染環の関係の深さを示唆しているといえる.こらは教科書では教えてくれないことである.この春も伝染源は多い,種子消毒はもちろん伝染源の除去や育苗期の茎葉散布の徹底を望みたい.
(岩手県立農業試験場発行,「農試だより」No.72,p5-6.より許可を得て転写)
4.3ヶ月予報(4月〜6月)
仙台管区気象台は3月19日に4月〜6月までの3ヶ月の予報を発表しました.予報の内容は次の通りです.
1)予想される天候
4月は,寒気が南下しやすく時々冬型の気圧配置となり,大平洋側では晴れの日が多く,日本海側では曇りや雨または雪の日が多いでしょう,5月から6月は低気圧や前線の影響を受けやすく,曇りや雨の日が多い見込みです.この期間の平均気温は平年並みでしょう.降水量は平年並みの見込みです.
4月:移動性高気圧の通過や,時々冬型の気圧配置となり,大平洋側では晴れの日が多いですが,日本海側では曇りや雨または雪の日が多い見込みです.
気温は低いでしょう.
降水量は日本海側では平年並みですが,大平洋側では少ない見込みです.
5月:天気はおおむね周期的に変わりますが,低気圧や前線の影響を受けやすく,曇りや雨の日が平年に比べて多いでしょう.
気温・降水量は共に平年並みの見込みです.
6月:低気圧や前線の影響で,曇りや雨の日が多いでしょう.
気温・降水量は共に平年並みの見込みです.
2)熱帯大平洋の状況
大平洋赤道付近の大気・海洋の状況はラニーニャ現象発生時にみられる特徴を示している.これまでの経過が似ている年は1971,1974,1986,1989年であり,4月〜6月の3ヶ月の平均気温は並み〜低温の傾向がある.
3)予報期間内の類似年と参考年
類似年:1980年と1987年.
参考年:1987年.ただし,4月の気温は低く,6月の高温・少雨・多少は弱めて考える.他に4月は1965,1993年,5月1980年(降水量は平年並みに考える),6月は1965,1976年.
4)前回3ヶ月予報からの変更点
4月の気温を「平年並み」から「低い」,大平洋側の降水量を「平年並み」から「少ない」に変更する.
この予報の内容で気になるのは,類似年に1980年と1987年が挙げられている点です.表1にあるように,1980年は東北の作況指数が78の平成5年に次ぐ大冷害であった年です.また,1987年は同作況指数104でしたが,青森県の下北地域77,青森市地域97,また秋田県の能代地域の作況指数は95で地域的に不作であった年です.両年とも盛夏期に低温が来ています.
次回の3ヶ月予報は4月18日に公表されますが,予報の内容を注視する必要があります.
類似年:1987年の4月〜6月の天気の概況は次の通りです.
4月(少雨,寒暖の差大きい):
月の半分が高気圧に覆われた.上層は北西流が卓越し,そのため記録的少雨でカラカラ天気となり,山林火災が相次いだ.中旬前半の寒さは2月下旬の気温で,この時期では第2位の記録であった.
5月(少雨,下旬北部で低温):
東西流が卓越し,月の半分以上が高気圧に覆われた.下旬まで少雨が続いたが,梅雨の走りの雨が降り気温は平年並みとなった.上旬前半季節外れの寒気が入り,放射冷却のため北部で氷点下となり凍霜害がおきた.
6月(記録的暑さ,少雨):
月初めに夏型の気圧配置が卓越し,真夏並みの暑さとなった.天気は周期的変化をした.下旬後半にオホーツク海高気圧が停滞しやませで梅雨寒の天気となった.梅雨入りは南部で6月25日,北部で6月27日であった.
5.豊凶を占う「たろし」
去る2月14日,岩手県石鳥谷町の「たろし滝」で伝統行事である豊凶占いがあると聞き,本年の冷害の早期警戒の仕事初めと思って見学してきた.
たろし滝は石鳥谷町の中心部から西に山間を8キロ程入った葛丸川上流の景勝「三ツ鞍」,「一ノ滝」の近くにある.トゲシ森から葛丸川に注ぐ沢水が山の中腹で凍りついてできる大氷柱が,この「たろし滝」である.「たろし」とは垂氷(たるひ)が訛ったもので「つらら」のことで,その形が滝に似ていることから「たろし滝」の呼び名がついたといわれている.
地元の農家の人たちは,昔から毎年2月中旬頃(旧正月の4日と日を定めている)になると,できた氷柱の太さを測り,その年の豊凶を占う伝統行事を行ってきた.氷柱の高さは,13mにも及び,太さは記録として残っているものでは,大豊作となった昭和53年の8mが最高である.この太さで託宣が下される.
当日,午前10時に託宣が下されると聞き,2月としては気温が異常に高いのを気にしつつ雪道に足を取られながら早めに現場に行く.既に保存会の関係者と宮司さんが神事の準備に取りかかっていた.しかし,氷柱はなく,滝の下に崩落した氷が散乱していた.期待していた「たろし」は幻となってしまった.関係者に聞くと,2月11日までは昨年並みの太さであったが,12,13日の気温の緩みと雨で崩落し,本年は測定不能となったとのこと.10時が近づくについて,地元民やマスコミ関係者がぞくぞくと集まってきた.
10時に神事が始まり,いよいよ保存会会長で託宣者の農業板垣寛さんが川柳で次の占い結果を発表した.
「並作に夢を託せというたろし」
「減反を憂いてたろし身をとかし」
含蓄のある内容に”不安と感動”の複雑な気持ちになった.その後,参集者に御神酒が配られ,行事は無事終了した.
2月19日,青森県農業試験場の玉川部長から津軽での同様な行事の新聞記事をファクシミリでいただいた.西目屋の乳穂ヶ滝の豊凶占いの結果(2月18日)は「今年は平年作だが,台風に気をつけたほうがよい」というものであった.
この行事から約2ヶ月が経過した.この冬は寒くて雪も多かったので豊作になるのではという話も風聞されるが,この間の天候の変動の大きさと長期予報の内容からは本年の稲作が楽観できるものではないように感じる.
平成5年の大冷害を教訓として始められた水稲冷害の早期警戒の仕事は本年で3年目を迎える.平成5年の大冷害,6年の異常高温による品質の劣化,昨年7年の日本海側多収地帯での不作,この3年間は異常続きであったといえる.5月から早期警戒の監視体制に入る.今,その準備に追われている.
たろし滝とは
今年のたろし
豊作を願って