水稲冷害研究チーム
越水らによる葉いもち発生予察手法
本手法は、東北農業試験場越水幸男氏らによって1988年に開発・公表されたものである。手法の内容は次の2つの論文に詳述されている。
- 越水幸男(1988)「アメダス資料による葉いもち発生予察法」東北農業試験場研究報告78:67-121.
- 林 孝・越水幸男(1988)「葉いもち発生予察のコンピュータプログラム(BLASTAM)の開発」東北農業試験場研究報告78:123-138.
その後、他の研究者の協力を得て、アメダスデータを用いた電算機用のプログラム(BLASTAM)が開発され、農水省植物防疫課の防除要否予測技術導入事業(1983-1987)で、テストモデルの一つとして取り上げられ、18県で予測精度の検証と適用範囲の検討が行われ、今日発生予察情報の一つとして広く利用されている。
本手法はアメダスデータの4要素(気温、降水量、風速、日照時間)から葉面の湿潤時間の推定、湿潤時間の平均気温および前5日間の平均気温を求め、感染に好適な条件を推定するものである。その情報に基づいて、葉いもちの広域的初発生時期、流行開始期または発病増加開始期を予測し、広域防除の要否ならびに回数の意思決定を支援するものである。
<葉面湿潤時間推定の考え方と方法>
- 葉面湿潤時間推定の対象時間は午後4時から翌朝6時までとする。
これは、いもち病菌の胞子飛散は日没に始まり、午前1時から3時にピークに達し、午前7時頃に終わる。これらの飛散胞子は葉上水滴中で発芽し、侵入する。したがって、夜間に葉が濡れているかどうかが、いもち病菌侵入の最も重要な要因となる。
湿潤時間推定を午後4時とするのは、昼間でも降雨があれば胞子が飛散し、特に夕方の降雨が飛散や侵入を促進するためである。
- 推定の方法
- 午後4時から翌朝6時までの間に、1時間でも降雨があると、葉面湿潤時間は記録時間の1時間前から翌朝7時まで継続するとみなす。次のような条件下では、それぞれ基準値を設定して湿潤状態が中断したとみなす。
- 降雨が4時から日没までの日照時間が基準値を超える場合。
- 日の出から午前7時までの日照時間が基準値を超える場合。
- 降雨があっても、風速が基準値を超える場合。
- 基準値以上の降雨や継続時間がある場合。
- 降雨が昼間から夜間に、あるいは夜間から午前7時後も続く場合に、それが基準1の推定対象時間(午後4時から午前7時)の葉面湿潤時間に連続するかどうかを判定する。
<いもち病菌の侵入条件推定の考え方>
- 気温、葉面湿潤時間といもち病の侵入率の関係から、気温は15度〜25度の範囲、葉面湿潤時間は10時間以上の条件が揃うと、いもち病菌の侵入条件が満たされる。
- 感染好適葉面湿潤条件となっても、前5日間の平均気温が20度未満、または25度以上のときは、感染好適条件とはみなさない。
- 感染好適条件の推定できる期間は、移植後21日目から35日間に限定する。
<感染好適条件の出現状況に基づく葉いもち発生予測の仕方>
- 葉いもちの広域的初発生時期の予測
- 好適条件が移植後21日目から35日間に初めて現れた日から7日目頃に広域的初発生(全般発生開始期)がみられ、その出現アメダス地点(地域的広がり)が多いほど発生の範囲は広いと予測する。
- 好適条件が1県で1〜2観測地点で、それらが別々の地域的に現れたときは、広域的初発生はないものとする。
- 広域的初発生時期の病斑密度は10a当たり30〜200個、平均100個で、特定の葉位に形成および色彩の斉一な病斑が孤立散在の状態で観察される。発生地域は時に南北150km、東西40kmに及ぶといわれる。
- 流行開始時期または発病増加開始時期の予測
- 好適条件が最初に現れたのちに強い低温がなければ、その後2週間後に流行開始または発病増加時期になると予測する。
- 好適条件が最初に現れたのちに同一地点・地域で1週間以内に続いて出現するときは、その回数が多いほど流行開始時期または発病増加時期の病斑密度は高く、病勢進展も急であると予測する。
- 好適条件が最初に現れたのちに同一地点・地域で1〜2週間に再び出現するときは、伝染環の繰り返しが効率的で、流行開始時期以降の病勢進展はやや急になる。さらに伝染環が繰り返されるようなときは、病勢はますます急激になると予測する。
- 葉いもち広域防除の要否ならびに回数の判定基準
- 好適条件が全然現れないか、アメダス1〜2地点に散発的にしか現れない間は、少なくともその先2週間は防除を待機する。
- 好適条件が全県的に、または県内の一部地域に初めて一斉に現れるときは、その後強い低温が来ない限り、その日から約2週間目が流行または発病増加開始時期になるので、この時期に1回の防除が必要である。
- 同じ観測地点または地域に好適条件が1〜2週間以内の間隔で再び現れるときは、伝染環の効率的繰り返しが可能になり、病勢はやや急激になると予測されるので、好適条件が再び現れた直後に1回の追加防除が必要である。
- 好適条件が、伝染環の効率的繰り返しが3回できるように現れるときは、病勢はますます急激になると予測されるので、さらに1回の追加防除が必要である。
<本手法の短所>
- 推定基準は全てが科学的根拠に基づいたものでないので、好適条件が多数アメダス地点あるいは地域的な広がりをもって現れた状態で判断する必要がある。
- 本来予測に必要な要素である病原菌密度と稲の抵抗力を考慮していない。
- 適用期間が制限されるので、発生が生育後期になって急に拡大するような場合には適用できない。
- 推定基準は葉いもちが広域に斉一に初発生するという疫学的現象を前提としている。したがって、罹病株の持ち込みによる局所的発生、あるいは高度抵抗性品種の罹病化による異常発生は予測できない。
- 防除回数の判定基準には、品種による防除回数の違い等は考慮されていない。
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