東北農業試験場

水稲冷害研究チーム通信

No.15

1996年5月24日


目次

  1. 早期警戒情報
  2. 3ヶ月・1ヶ月予報
  3. 5月上中旬の気象
  4. 宇宙からみた東北稲作(津軽)
  5. ホームページ案内
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1.早期警戒情報(5月17日,第4号)
 仙台管区気象台が5月17日発表に発表した1ヶ月予報によると,まだ寒気が入りやすい状態が続くと予想されています。苗の活着不良等が心配されていますので,5月17日に次のような警戒情報を出しました。

早期警戒情報(1996年5月17日)
 
 5月に入ってからの極度の低温が苗の活着に悪い影響を及ぼしたものと推察されましたので,田植えの早い地帯を中心に21,22日に概査してきました。調査の概要は次の通り。
 岩手県南部:5月10日〜15日頃までに移植した圃場では,葉先の枯れ(褐変,糸条に白く巻くものなど)が目立ち圃場全体が茶色っぽく見える。移植後間もない圃場は緑色に見えるのと対照的である。ひどい圃場では1株当たり苗本数が減少している。発根は見られるが,2,3cm程度しか伸長していない。活着して苗が生長を始めた圃場はほとんど見られない。
 宮城県:特に風の強い地帯では,低温と強風をもろに受け特に被害がひどい印象を受ける。岩手県南と同様に,圃場が茶色く見える。5月10日頃までに移植した圃場では,葉先の枯れが目立ち,ひどい圃場では1株本数が減少し,欠株も散見される。発根は数センチ程度見られるが,苗はほとんど動いていない。
 山形県:移植時期の早い酒田市・遊佐町などでは葉先の枯れが目立つ。例年より田植えも遅れたようである。5月10〜13日頃までに移植した圃場で被害が出ている。風の強い地帯では宮城県と同じような症状も散見される。
 秋田県:県南部の海岸に近い地帯は,酒田市と同様である。葉先の枯れが目立つ。かなりひどい圃場も散見される。
 歩いてみて,葉齢が進み活着して動きだしたという印象を与える圃場はほとんど見られませんでした。また,教科書通りの障害が現れていました。

早期警戒情報(5月24日,第5号)
 仙台管区気象台が5月24日発表に発表した1ヶ月予報によると,向こう1ヶ月の平均気温は平年より高い,降水量は平年より多い,日照時間は日本海側で平年並み,大平洋側では平年より少ない可能性が大きい見込み。
 この内容から,今まで続いている低温と日照不足の解消が期待されますが,大平洋側では引き続き日照不足が懸念されます。また,作柄診断モデルによると,大部分の地帯で5月下旬の最高気温が高すぎると,作柄には良い影響を与えません。このことは,特に日本海側で問題となります。さらには,最近の天候の変動が余りにも大きく,週間予報も短期間に大きく変化しています。
 このようなことから,次のような情報を発出することにしました。
 
早期警戒情報(1996年5月24日)
 
 4月,5月の気象経過から,どうしても平成5年の大冷害が思い出されます。同年の研究日誌によると,厨川の大規模圃場で5月12日に移植した苗は5月17日には活着したような兆候が認められた。今年は苗の生育の遅れから5月17日に移植されたが,本日25日活着した兆候はまだ認められない。また,低温による葉先の枯れや白く変色している状況である。
 過去,このような気象経過に類似の年としては昭和46年がある。山形県農業試験場の吉田氏らの「昭和46年の異常気象における水稲作況に関する一考察」(東北の農業気象,第18号,昭和48年)によると,昭和46年の作況指数は90となり,昭和20年以来の不作となった。減収の主因は,苗代期(4月中旬〜5月10日)の低温・寡照・多雨・降霜と登熟期(8月16日以降)の低温・寡照であり,ともに類例の少ない異常気象であったという。同年の類似年としては,昭和9・大正2・昭和38年で,いずれも収量の平年比(前7カ年の最高・最低の収量年を除き5カ年の平均を平年とする)は,55%,87%,72%と甚大な凶作年となっている。昭和46年の稲作の特徴は次の通りであった。

・苗代の凍霜害:水面から露出した部分の凍害と黄化現象,二次的に立ち枯れ病が発生。
・田植期の遅延:山形県平均で7日遅れ。
・短稈少けつ型で,出穂遅延は比較的少なかった:5月末から6月上旬の高温多照で肥切れが早く起こり,これに7月の低温が重なり,有効分げつ歩合の低下による穂数の減少と短稈化した。出穂期は7月末から8月上旬の異常高温で促進され,出穂が早まった。
・稲体質の低下:低温と高温の繰り返して,苗質不良とともに稲体質の低下を招き,いもち病の誘因となった。
・登熟不良・品質低下:8月16日以降の低温・寡照は記録的なもので,登熟不良を招き,減収を決定的なものにした。
・病害虫の発生:葉いもち・穂いもちが大発生した。特異的な害虫では,イネドロオイムシ,セジロウンカの大発生をみた。
 
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2.3ヶ月予報(6月〜8月)と1ヶ月予報(5月25日〜6月24日)

○5月20日発表 3ヶ月予報

○5月24日発表 1ヶ月予報

 
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3.5月上中旬の気象

1) 5月上旬(表1参照)
 平均気温は9〜13度程度であり,特に青森・岩手両県で10度を下回った地点が多い。これらの地点では平年に比べて1度程度低かった。
 最高気温は13〜17度程度で,平年に比べて1〜3度程度低かった。
 最低気温は5〜10度程度で,ほぼ平年並みかやや高かった。
 降水量は平年に比べて2〜4倍程度あった。,
 日照時間は青森・岩手・秋田・山形・福島県会津で平年に対して4〜6割程度であった。
 この期間は不順な天候で本田の準備等に支障がないか心配された。

2) 5月中旬
 平均気温は8〜13度程度で,特に青森・岩手両県で10度を下回った地点が多い。平年に比べて2〜4度も低かった。
 最高気温は13〜18度程度で,平年に比べて1〜5度も低かった。
 最低気温は4〜8度程度で,平年に比べて1〜3度も低かった。
 降水量は全般に少なかった。
 日照時間は東北南部や秋田県で平年並み以上あったが,青森県むつ・五所川原,宮城県石巻・米山・古川・仙台・亘理,福島県相馬では平年に対して7割以下であった。
 この期間,早いところでは田植えが始まる時期であり,この著しい低温による各種障害が懸念された。先の調査報告にあるように,活着の障害や遅れが現れている。天候に一日も早い回復が望まれる。
 
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4.宇宙からみた東北稲作「一大稲作地帯:津軽」
 青森県津軽地域の平成7年度水稲作付面積は39,000ha,10a当たり平年収量は615kgであり,約24万トンの米を生産する一大稲作地帯である。水稲の他には,リンゴ,露地メロン,ダイコン・ニンジン・ニンニクなどの根菜類の生産が多い。
 衛星画像は,大冷害の平成5年9月1日のランドサット5号のTMのものである。赤・緑・青にTMバンドの7,5,3を割り付けて表示している。水田域はバンド7と5の中間赤外域の吸収が大きいために黒く浮き出ている。市街地や日本海沿岸の砂丘地帯では反対にこれらのバンドの反射が大きいために赤色や白色で写し出されている。山麓や平野内の台地に集中するリンゴ園もよくわかる。画像左下にある岩木山は県下第一の高峰であり,津軽富士と呼ばれる。
 ここ津軽のほとんどの市町村は,冷害危険度地帯区分ではグループ2に属する。他県で同じグループに入るものは岩手県盛岡市・矢巾町・紫波町だけである。このグループの過去の平均収量は580kg,変動係数は14.6%であり,日本海側の多収地帯のグループ5と収量水準はほぼ同レベルであるが,変動が多いという特徴がある。(図1
 津軽は県内の他の地域に比べると冷害が少ない地帯であるが,昭和55年,56年,そして平成5年には著しい冷害の被害を被った(図2)。収量が600kg前後の多収地帯ではあるが,強度の低温が減数分裂期から出穂期に来ると,想像を絶する被害を受ける。
 平成5年度の大冷害時の収量分布は図3のようになっている。同地域でも弘前や黒石周辺や深浦町・岩崎村は比較的被害が小さいが,北部に行くほど被害は甚大となる。
 津軽半島を東西に分ける中山山脈は東の湾岸部にぶつかるヤマセの防風林だが,いくつかの峠や沢部がある。それがヤマセ峠やヤマセ沢となって,激しく津軽を襲うためである。
 津軽を含むグループ2の地帯は5月下旬の田植え後の活着期,6月上中旬の分げつ期,7月中旬から8月上旬の障害型冷害の危険期,9月上旬と下旬の登熟期が作柄成立上重要な時期となっている。この時期の気温経過が重要な意味をもつ。日照時間は5月上旬と7月中旬が重要となる以外,他の時期の日照時間はほとんど影響しない。大平洋側の地域に比べて日照時間が豊富なことによる。
   
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5.ホームページ案内
 本ホームページは冷害の早期警戒システムとしての機能を持つため,最新情報をできるだけ早く提供することに努力しています。したがって,新情報を示すマークはほとんどの項目で点灯しています。仙台管区気象台発表の1ヶ月予報は毎週金曜日午後5時頃東北農政局から入ります。また,各県の技術指導情報や予察情報は入手次第,掲載するようにしています。また,未だ安定しない不順な天候なので,監視61地点の気象経過も毎週月曜日に更新しています。監視態勢に入って実感としては非常に長く感じるのですが,まだ田植えが終わったばかりです。秋まで身が保つか心配です。早く順調な天候に戻って欲しいものです。
 さて,2つの事項について,ご案内します。
 一つは,「宇宙からみた東北稲作」の項目にやっと”一大稲作地帯−津軽−”の情報が入りました。1993年大冷害の時の数少ない衛星画像の一つで,最高の質のものです。稲作情報の抽出を青森県農業試験場の玉川部長と進めています。稲作の他には,リンゴ園や砂丘地農業の分布実態,白神山地の植生分布の把握等にも利用できると思います。この項目は東北の稲作立地の概況を衛星画像で視覚的に捉えること,各立地での冷害危険度と作柄成立の特徴を冷害危険度地帯区分に基づいて概説すること,さらには東北農試が所蔵する衛星データの紹介と共同研究で他の分野の方々にも使っていただくこと,などを目的としています。
 もう一つは「水稲冷害研究チーム」のシンボルマークを牧草育種研究室の米丸さんが作ってくれました。下にシンボルマークとその意味を掲載しています。当初,彼は部外者としてホームページについて建設的な意見を述べるのとどまっていたのですが,突然ホームページの体裁に気を配り始め,アイコン作りに熱中するようになりました。
例えば,1996年東北稲作動向(新聞記事から)を見てみると,4月の桜,5月上半期の鯉のぼり,5月下半期の田植え風景,6月の紫陽花,7月の七夕が既に作成されています。これらの内,田植え風景は5葉期の成苗が早乙女によって移植されている様子を繊細に描き出しています。原図をみないとわからないのですが,植え付けられた苗の影,早乙女の手足の美しさなど感動ものです。また,七夕には「冷害退散」「豊作」などの短冊が東北地域の願いとして掛けられています。その内展示会でも開くかと冗談を言い合っています。とわいっても,本業の仕事が疎かになっては困ります。聞くところによると,寝る前の暇つぶし(?奥さんがいるのに)や土日のアルバイトで頑張っています。彼のお陰で,本ホームページに潤いが与えられています。
 凝り性のボランティア研究員が日々頑張ってくれるため,本ホームページはどうにか運営されています。

<こぶしの花が咲かない:続報>
 恩師である渡部忠世京都大学名誉教授が主宰する農耕文化研究振興会の通信No.17(1996.5.24)の後記一筆の欄に次のような記述があり,驚かされた。
 仮に孤島に流されることになって,何か一つ好きな食べ物を持っていってよいとしたら何を選ぶか。そのようなことを女子大生たちが話し合っていて,チョコレートやその他いろいろの食べ物が出た後で,京都出身のお嬢さんが,ぽつり「筍の煮物」と言った。その筍が昨年の日照りの影響で,今年は不作である。
 今年は,また,近畿の山々に辛夷(こぶし)の花があまり咲かなかった。土地の古老によると,稲の不作の前兆だというが。

お詫び:前号の気象予報の中で,皆様お気づきのように日付等を間違いました。また,水稲冷害研究チームのマークの玄米の部分がどうしても肌色にカラー印刷できませんでした。
 
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